東京パラスポーツスタッフ認定者インタビュー(12)水泳(身体)/クラス分け・コーチ 星野英子さん(2020/2/12)

星野英子さんの写真

【プロフィール】
ほしの・えいこ 1970年生まれ。東京都出身。
日本身体障がい者水泳連盟所属。心身障害児総合医療療育センター勤務。
普段は理学療法士として病院に勤務。パラ水泳のコーチに加え、障害の種類や程度によってクラスを分ける「クラス分け委員」を担う。2010年に世界パラ水泳選手権大会の国際クラス分け委員に認定され、2018年のアジアパラ競技大会、2019年のメルボルンで行われたWPSワールドパラシリーズ大会など、海外の大会で国際クラス分けを行う。
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トップクラスの選手の競い合いでは、オリンピックと同じくらいの記録がたたき出される「水泳(身体)」。公平なレースを行う上で必要な「クラス分け」は、選手にとって勝敗を左右する重要な要素の一つです。今回、国際クラス分け委員を務める星野英子さんにインタビューしました。

正確なクラス分けを行わないと、前途有望な選手の芽を摘むことにもなりかねません

クラス分けは選手が必ず通る最初のゲート

~パラ水泳に関わるようになった経緯を教えてください。~

人生で初めてパラ水泳に関わったのは高校生の時、地域のプールで介助員として、ボランティア活動をしたときです。現在も、勤務している心身障害児総合医療療育センターで、障害のある子どもたちのプール指導を行っています。

パラ水泳のクラス分けに携わるようになったのは、就職したばかりの1995年、勤務先の先輩である理学療法士に誘われたのがきっかけです。仕事が休みの土日を利用して、クラス分けの現場に連れて行ってもらったのですが、最初は何が何だかわからない状態で、緊張していたのを覚えています。毎年参加するようになって徐々に知識も経験も増え、その奥深さとパラ水泳の楽しさがわかるようになりました。

その後は国内で研鑽を積み、日本パラリンピック委員会(JPC)の助成金で「国際クラス分け」の海外研修に行かせていただきました。現在は、日本身体障がい者水泳連盟の強化部にも所属するとともに、世界パラ水泳選手権大会(WPS)の国際クラス分け委員の資格を取得し、国際大会においてもクラス分けを行っています。

~「クラス分け」とはどのようなものですか。~

「クラス分け」とは、個々の障害の影響を最小限に抑え、競技パフォーマンスで平等に勝敗を決めることが可能となるために競技クラスに分けることであり、選手が大会に出る際に、誰もが必ず通る最初のゲートとなります。選手は大会開催の前に、まずは地域でクラス分けを受け、上位大会に出る際には、より精度の高いものを受けます。その先の国際大会でも新たに受ける必要があります。

クラス分けは3段階で行われます。第1段階は「ベンチテスト」といわれるメディカル検査で障害の特性が一番わかるテストです。障害と言っても様々なタイプがあり、例えば筋肉が弱っていく疾患の選手であれば筋力テストを、関節の可動性に障害が出る疾患であれば関節の可動域のテストを行います。第2段階は「ウォーターテスト」で実際の泳ぎをチェックし、第3段階は「競技観察」を行います。

~選手のクラス分けを行っているなかで、やりがいを感じたこと、難しいと思ったことなどあれば教えてください。~

クラス分けには知識と経験が必要です。正確なクラス分けを行わないと、前途有望な選手の芽を摘むことにもなりかねません。陸上で評価した動きと水中の動きは違うことも多いため、その整合性を考慮する必要があります。重力を受ける陸上での医学的な評価(筋力テストや四肢の運動のテストなど)と、浮力・水圧が影響する水中の動きとでは異なります。また、すべての選手が水に慣れているわけではないから、障害があるからできないのか、水泳のスキルが低くてできないのか、水への恐怖心などの精神的な影響がどの程度あるのかを正確に見分けなくてはいけません。

星野英子さんの写真1

選手には敬意をもって接する

~選手たちと接するうえで心がけていることはありますか。~

選手に敬意を払うことです。これは、国際的なクラス分けを日本で研修してくれた、当時のIPC Swimmingチェアパーソンであったオーストラリアのアン・グリーン氏と、理学療法士ジェーン・バックレイ氏からの影響を受けています。お二方からは、「パラ水泳選手は患者ではない」「選手をアスリートとして評価し、選手が不利にならないようにクラス分けを行う」という視点を教えてくれました。
 クラス分けを受ける選手は、大概緊張しています。選手にとってクラスが変わるということは、メダルを取れるかどうかに大きく関わってきます。緊張していると、その選手が本来持っている能力を見ることができず、「緊張してできません」と言われても、判定する側としては判断が難しいです。そのため、敬意をもって接し、選手ができるだけリラックスした状態で検査を受けてもらえるように、いつでも笑顔で和やかな雰囲気になるように心がけています。

星野英子さんの写真2
~「スタッフ」とはどういう存在だと考えていますか~

選手を支え、選手と共に上を目指していくことができる存在だと思っています。また、選手のためにサポートをするだけでなく、お互いに高め合っていくことができる存在だとも思っています。競技を始めたばかりの初々しい選手が、年を経て実力をつけ、強化選手・代表選手になっていく姿を見ることは嬉しいですね。

~指導と仕事の両立はどのように行っていますか。両立させるためのコツは何でしょうか。~
星野英子さんの写真3

現在の勤務先である心身障害児総合医療療育センターは、幸いにも障害者スポーツにも理解が深く、出張扱いで海外大会の活動を認めてくれています。現場の同僚には迷惑をかけている点もありますが、皆さんが活動を理解してくださり、協力いただいているおかげで、両立しやすい環境になっており、とても感謝しています。クラス分けも水泳指導も、仕事に関連しています。むしろパラ水泳に携わることで、本来業務の参考になる場合があります。両立させるためのコツは、やはり周囲の皆さんに活動を理解してもらい、協力者を増やすことだと思います。

~「東京パラスポーツスタッフ」に認定されて、どのようなお気持ちですか。また本制度についての感想をお願いします。~

東京都が認定してくれたということで、より職場の理解が進んだと思います。個人的に行っているボランティア活動から、認められた社会貢献の一つと考えてもらえるようになった気がします。本制度は、まだあまり知られていないと思うので、パラスポーツを発展させていくためにも、今後の活動を通じて、多くの人々に、サポートスタッフが必要だということを認識していただきたいですね。

リハビリや福祉の一環ではなくスポーツとして見て欲しい

~東京2020パラリンピックを目指す選手へ期待していること、応援のエールをお願いします。~

東京2020パラリンピック開催まで1年を切りました。自国開催ということで、選手はプレッシャーが大きいと思うのでサポートスタッフとして、選手たちが最高のパフォーマンスを発揮できるようにしたいです。また、開催国として誇れる大会になるように、運営側においても協力していきたいと思います。選手・スタッフ一丸となって成功に繋げていきましょう。そして思い切り楽しみましょう。

~今後、パラ水泳の未来への展望、夢があったら教えてください。~

パラ水泳では、地域で練習したくても、まだまだ充分な環境が確保できていません。水泳を練習したい若い選手や子どもたちを、受け入れてくれる地域のプールがもっと必要です。今後は、地域の理解が深まっていくと、将来も明るくなるのではないでしょうか。

9月初めにロンドンで行われていた世界パラ水泳選手権に、クラス分け委員として参加して強く感じたのは、地域の盛り上がりです。特に教育の一環として地元の小中学生が大会を応援しに来ていたのですが、驚くほど盛り上がっていました。子どもたちも地域の人も、スポーツとして応援している感じでした。日本では、まだリハビリの一環としてのスポーツ、福祉のスポーツという感が否めないと思うこともあります。今後は障害の有無の垣根を越えて、また学校の教育や生活の中で、パラアスリートのスポーツとして見ていく視点を身につけることが大切だと感じました。

星野英子さんの写真4


2019ジャパンパラ水泳競技大会が行われる前日、クラス分け準備のお忙しいなかで取材に応じていただきました。国際大会ではクラス分け委員の立場上、日本チームと行動を共にすることも応援することもできない星野さんですが、大会を観ながら、日本選手の活躍には机の下でガッツポーズをされているという熱い一面もあります。選手を支え、選手と共にお互いを高め合っていくという、星野さんの想いは世界中の選手にも伝わっていると思います。