今よりももっと動ける明日へ誰もが運動できる場所を提供していきたい
すべてのトレーナーが国家資格の理学療法士を有するパーソナルトレーニングジム「ARROW」は、ケガや病気、障害がある方でも、体の専門家がそれぞれの人に合った丁寧な指導を行い、安全で効率的なトレーニングを実践している。
今回、ARROWの代表取締役・阿藤貴史(あとう・たかふみ)さん、スタジオ事業責任者・菅原祐太(すがわら・ゆうた)さんに話をお聞きしました。
理学療法士になってスポーツ関係の仕事をしたい人はたくさんいますが、実際は9割近く病院や行政に勤務して、スポーツに携われる人はごくわずかです。私(阿藤さん)は学校を卒業してスポーツジムで働きながらトレーナーとして学び、そこに理学療法士の知識を生かせないかと思い続けていました。そうしているうちに、例えばケガで動かなくなった場所を動かしたい、歩けるようになりたい、痩せたい、格好良く筋肉をつけたいなど、障害の有無に関わらず、その人が「なってみたい自分」になれる場所を作りたいと思って始めたのが「ARROW」です。
障害の有無に関わらず、体力に不安のある方、運動したいけど思うように体が動かせない方は、スポーツジムに対して二の足を踏んでしまいがちなので、私たちはホームページや看板なりに「運動が苦手でも、障害があっても、誰でも受け入れます」ということを発信して、心理的ハードルを下げるよう心がけています。誰でも気軽に運動をやって欲しい気持ちが一番強いです。
現在、片麻痺の方が3人ほどトレーニングに来ています。入会の際、運動の目的をお聞きするのですが、一般の方の「疲れやすい体を直したい」、「肩こりを解消したい」という理由も、障害のある方の「上手に歩けるようになりたい」という理由も同じこととして認識しています。障害があるから特別な対応を行っているとは思っていません。もちろん麻痺で動けない方もいるので、その方に合わせてトレーニングメニューを変えています。
現在、通って来ている片麻痺の方の目的ですが、ダンスをやっていた女性は最初は「ダンスをきれいに踊りたい」「体を絞りたい」といった目的でしたが、出産で一時離れていて復帰された後はダンスは辞めて、「産後の体を引き締めたい」「育児のために体力をつけたい」と目的がチェンジしたので、トレーニング内容もそれに合わせて変えていきました。もう一人のボウリングをやっている方は、「スコアを伸ばしたい」「フラつくのを安定させたい」という理由でトレーニングを行っています。
3人目の方は、「歩くのがフラフラする」、「風の強い日は足元を取られてしまう」のを気にされてトレーニングを行っています。その方は体が硬く、スクワットの場合、足首が硬いためカカトの下にタオルを敷いて踏んでもらってスクワットをしてもらっています。
また、障害のある方が四つ這いの姿勢をとる際に、一人では難しい場合があるので体をサポートするとか、麻痺で腕や脚が硬い場合は先にストレッチをして体を温めてからトレーニングをするなど、その人に合った工夫で対応しています。
ダウン症の方もいらっしゃいますが、その方には具体的な動きを理解していただくために目標を定めて方角を示したり、遊びの要素を入れたり運動に取り組みやすくする工夫をしています。
その人に合わせたトレーニングを提案するという意味では、障害の有無はあまり関係ないですね。
ARROWでは、病院のリハビリと同じで、お客様ごとに「カルテ」を作っており、新しいお客様が来店したら、その方がどういった目的で、どういうトレーニングを希望しているのか、7人のトレーナーで共有しています。例えば、脳梗塞の方であれば、病院でボトックス注射を行った後の状態を確認したり、病院での診察結果などをお聞きしたり、トレーニング外のことも情報共有して、その方にとって効果的なメニューを提案しています。
病院のカンファレンスのようにスタッフ間の情報交換も欠かせません。その時はトレーナー以外に受付スタッフも一緒です。基本的にはどのトレーナーでも対応できるようにしています。
ハード面では特別なことはしていませんが、受付スタッフとも情報を共有しているので障害のある方が来ることがわかっていたら玄関口に椅子を用意したり、更衣室は個室で椅子やハンガーを用意しています。
このジムはビルの3階でエレベーターがないために来られないというお客様もいて、心苦しい思いもありましたし、問題認識もありました。今度、オープン予定の経堂店は、1階で間口も広くなるので、車いすユーザーをはじめ幅広い方々に利用してもらえると思います。
トレーニング機器については、特別に障害のある方に配慮したものを用意する予定はありませんが、障害の有無に関わらず、「みんな一緒に出来る」ことを考えています。それぞれ身体の特長があるので、個々に利用しやすいように工夫をして対応していこうと思っています。先ほど話したようなカルテや情報共有などソフト面が大事なのかなと思います。
いまはスタッフ全体で様々なお客様をきめ細かくサポートしています。それは小規模のジムだから可能なのかもしれませんが、これから店舗が増えても、店舗ごとにいまのようなスタイルで続けていけるようにしたいと思っています。
ARROW
https://ts-arrow.com/
ARROWでは、お客様一人一人にカルテを作成して、トレーニングの目的や身体的な特長などの情報をスタッフ間で共有しています。障害の有無に関わらず、それぞれのお客様に合わせて何を行うべきかを真摯に考えて、スタッフが共通した行動がとれていることが誰もが運動できる場所を提供することにつながっていることを教えてくれました。