i-Self Workout for Wheelchair
車いすユーザー対応セルフ型トレーニングジム

日本初の車いすユーザー対応セルフ型トレーニングジムは、誰でも使えるマシンを備えたジム

写真:i-Self Workout for Wheelchair紹介

2019年3月、江東区木場にオープンした「i-Self Workout for Wheelchair(以下、i-Self Workout)」は、その名の通り、車いすユーザーが自分のペースで運動を楽しめる日本初の会員制ジム。脊髄損傷者を対象に再び歩くことをサポートするジム「J-Workout(ジェイ・ワークアウト)」に併設されています。他のフィットネスクラブと変わらない料金設定で、車いすに乗ったまま、トレーニングマシンで筋トレやストレッチ、有酸素運動ができることから、いま障害のある方から注目を集めています。

今回、ジムの運営を行っている代表取締役・伊佐拓哲(いさ・たくのり)さん、事業部長・中村晋二(なかむら・しんじ)さん、トレーナー・西山千里(にしやま・ちさと)さんに話を聞いてみました。

車いすユーザーの方々が「気軽に」運動できる環境を

車いすユーザー対応セルフ型ジムを始めたのは、手頃な利用料で、介助なしでも運動する場所をつくりたかった

私(伊佐さん)は事故で脊髄を損傷して車いす生活となり、気軽にスポーツをできる場がなくて困っていました。脊髄損傷者が通うアメリカのジムなどを参考にしながら2007年に創業したのが「J-Workout」です。これまで脊髄損傷の方のトレーニングを400人以上行ってきて、さまざまなノウハウが蓄積されてきたので、違った試みとして始めたのが「i-Self Workout」となります。

これまでの経験からわかったことは、脊髄損傷者がトレーニングを安全に行うにはどうしても「人」の力が必要となり、人にかかるコストも相応になるということです。そこで、車いすユーザーでも介助を必要とせず自分で運動できる場があればと思ったのがきっかけです。

健常者なら、「ちょっと運動をしたい」と思ったら、公園でウォーキングをしたり、マンションの階段を昇降したり、ちょっとした工夫ですぐに体を動かすことができますが、車いすユーザーではそのように気軽に「ちょっと運動に」とはいきません。家族やサポートの人に付き添ってもらったり、パーソナルトレーナーに対応してもらったり、人の手助けや場所が必要となります。そうした車いすユーザーの方々がサポートの人に頼ることなく、自分が運動したい時に使える、そんなトレーニングジムを私たちは目指しています。

車いすに乗ったまま利用できるトレーニングマシン

このジムのトレーニングマシンは車いすユーザーの方が快適で安全に利用できるためにつくられたもの

写真:i-Self Workoutのトレーニング室
i-Self Workoutのトレーニング室

私たちのジムで使用している「車いすユーザー対応セルフ型トレーニングマシン」は車いすから降りることなく、ユーザー自身で基礎体力トレーニングを行えます。筋トレ用3台、有酸素運動用2台の計5台を取り揃えています。このマシンでは左右にあるワイヤーを操作することでトレーニングを行い、体格や鍛えたい部位によってワイヤーの負荷や長さを調整できます。

写真:車いすに乗りながらトレーニングができる
車いすに乗りながらトレーニングができる

車いすが動いたり、後ろに倒れたりしないように自分で固定できるアタッチメントが付いており、ワイヤーを固定させておくフックもあるので、車いすに乗ったまま自分一人でマシンの準備からトレーニングまでできるようになっています。

マシンの幅は充分に確保し、 電動車いすにも対応しています。 左右が独立した機構になっているため筋力に左右差があっても、 片麻塵の方が片側だけも鍛えることも可能です。 握る力の弱い人には固定グロープなどオプションも取り揃え、さまざまな障害のある方に利用していただけると思います。

写真:片側だけを鍛えることもできる
片側だけを鍛えることもできる
写真:握力が弱い方には固定グローブでサポート
握力が弱い方には固定グローブでサポート

これらのマシンは、シンプルな機能を重視して開発されているので、導入にあたってはそれほど高額にはならず、その点もよかったですね。

マシンの間隔や動線、ちょっとした小物など工夫を重ねながら利用者の利便性を向上

工夫している点でいえば、車いすをバックさせてマシンを使うことがあるので、位置がわかりやすいように床に目印となるラインをいれています。また障害のある人の中にはうまく体温調整ができない人もいるので移動式の送風機を準備したり、背中を真っ直ぐにするためのクッションを用意したりしています。

写真:車いすでバックする際に目印となるライン
車いすでバックする際に目印となるライン
写真:背中が丸くならないようにクッションを利用
背中が丸くならないようにクッションを利用

このジムのマシンは健常者のトレーニングにも利用ができる

車いすユーザー専門ではなく「対応」だからこそ誰でも使えるトレーニングマシン

このジムのマシンは、車いすではなくベンチや椅子を使えば健常者のトレーニングマシンとしても使えます。もちろん立った姿勢でも使用できるので、車いす対応といいながらも誰でも使えるトレーニングマシンです。このトレーニングマシンを設置するジムがもっと全国に増えれば、障害の有無に関わらず利用できるインクルーシブな運動する環境が広がり、車いすユーザーの方が近所のジムでもトレーニングできるかもしれませんね。もし、このマシンに興味のある方がいればご相談ください。

写真:ベンチをおけば健常者でも利用できる
ベンチをおけば健常者でも利用できる
写真:立ちながらのトレーニングも可能
立ちながらのトレーニングも可能

車いすユーザーでも利用できるトイレが「誰でもトイレ」と呼ばれるようになりました。最初は障害者用だから使ってはいけないんじゃないかと思われていたものが、「誰でもトイレ」と呼称されるようになって、障害者の方が利用しないときは一般の人も使えるようになり、世の中に浸透して設置数が増えていきました。これからのトレーニングマシンも「誰でもトイレ」のように、「誰でも使える」仕様となっていけば、障害のある方が運動できる環境が増えていくのだと思います。

コミュニティの場として利用者同士で刺激し合う

人との繋がりもトレーニングジムの重要な役割

「i-Self Workout」には、これまで運動をしたことがない方が来るようになりました。そうした方々がジムで一緒になることで、お互いに励まし合ったりして仲良くなる人も増えています。ジムがコミュニティの場となって、体の面に加えて、気持ちの面でも明るくなったという声を聞きます。

そのような背景からジムでのコミュニティの役割を重要視し、 館内に情報交換できる掲示板を設けています。今では「こんな体験会があります」 「チラシを貼ってください」 と活用されるようになり、 掲示板の情報からスタッフと一緒にスキーへ行ったり、 旅行に行ったりと広がりを見せています。

障害のある方の声をよく聞いて工夫をすれば、ご利用いただける施設は増えてくる

まずは、利用者との対話からはじめて、私たちができる範囲の対応を考える

私たちのジムでもすべてのバリアフリー施設を完備しているわけではありません。それぞれの利用者と何ができるのかを話をして、私たちのできる範囲で対応しています。フィットネスクラブの中には車いすユーザーであることを伝えただけで怖がってしまい、断ってしまうところもあるようですが、まずは話を聞くことが大事です。

障害の度合いや施設の構造によっては、ちょっとした工夫で解決できることがたくさんあります。例えば入口に階段があっても、2〜3段であればスタッフが利用者と車いすを持ち上げれば解決できる場合もありますし、車いすを固定することさえできれば一般的なトレーニング器具が使えることもあります。

ジム側から障害のある方のご利用に係る情報を発信することで、車いすユーザーにジムの存在を気づいてもらう

ジム側は障害のある方の声を聞き、障害のある方も施設に対して詳しく事情を説明することで、利用可能なジムも増えてくると思います。事前に障害のある方のご利用に係る情報が発信されていれば、運動をしたいと思った方がジムを探す際の参考にできます。すでに「運動をしている人」だけではなく、これから「運動をしたい人」にもアプローチが必要です。車いすでも運動できる環境があることをジム側から伝えるのも大事だと思います。

写真:取材にご協力をいただいた皆様
取材にご協力をいただいた皆様

i-Self Workout for Wheelchair
http://i-selfworkout.com/

取材を通して学んだこと

「車いすユーザー対応セルフ型ジム」という新しい切り口で立ち上げられた「i-Self Workout」では、誰もが利用可能なトレーニングマシンを使っていました。「誰でもトイレ」が一般に普及したように、「誰でもトレーニングジム」が増えることが、障害のある方のスポーツ環境を広げることに繋がることを教えてくれました。