Functional 南青山パーソナルジム
パーソナルトレーニングジム

予算がなくてもアイデアと工夫で、障害のある方も利用できるトレーニングジムはつくれる!

写真:事務風景と代表の佐藤厚志さん

東京メトロ、都営地下鉄「青山一丁目」駅からほど近くに立地する完全予約制パーソナルトレーニングジム「Functional 南青山パーソナルジム」は、アスリートから障害のある方まで幅広く高い評価を受けている。同ジムでは『できない、をできた!へ』を掲げ、現在、ユーザーの3〜4割が障害のある方で占めているといいます。

今回、障害のある方から厚い支持を受けている「Functional 南青山パーソナルジム」の取り組みについて、代表の佐藤厚志(さとう・あつし)さんにお話を聞いてみました。

ジムの環境に合わせて「やれることをやる」ことで、障害のある方にも充分にご利用いただいています

ジムをはじめたきっかけは、出張トレーナーとして障害のある方のトレーニングをお手伝いしたことがきっかけ

7〜8年前、最初は出張トレーナーとして活動をしていました。その頃、障害のある方から問い合わせがあって、お宅を訪ねたところ「本当に来てくれたんですね」と大変驚かれました。お話を聞いてみると「障害者」だと伝えると断られることが多かったそうです。

障害のある方々はトレーニングをしようにも場所がなかったり、人が多いところが苦手だったり、移動の自由など制約が多かったり、リハビリや運動をしたい気持ちがあっても踏み出せない方がいらっしゃいます。その方は半身麻痺の方でしたが、トレーニングを重ねていくうちに歩けるほど身体機能が回復しました。

出張トレーニングの場合、ジムと違ってトレーニング器具が揃っているわけではなく、その場の環境でできるメニューを考えなければなりません。「やれることをやる」ということで、あるものでトレーニングメニューを考え、実践していただきました。その時の経験が今では役立っていると思います。

写真:代表の佐藤厚志さん
代表の佐藤厚志さん

トレーニングジムを開いたきっかけは、アメリカに居た時、多肢欠損等(身体欠損)の元傷痍軍人が健常者に混じって普通にジムでトレーニングしている姿を見て、こうした障害を超えた関係もいいなと思いました。出張トレーニングで障害のあるお客さんから、いろいろとトレーニングの要望もあったので、お客さんの声に応えられるように、メニューを増やすにはジムがあった方がいいと思い、開くことにしました。

ジムは長く続けても飽きのこないトレーニングを提供したくて、周囲の目も気にせずにすむ、少人数で完全予約制、1体1で向き合える現在のスタイルに行き着きました。

バリアフリー専用でなくても安価で格好いい実用品はある!

トレーニングジムでこだわった点は、お洒落な土地と、自分で探した用具たち

僕は浜松の地方出身なので東京のお洒落な場所でやってみたかったんです(笑)。それにトレーニングに通う人たちにもお洒落な土地は「心の満足感」が得られるんじゃないかなと思います。

ここは駅に近く1階の物件ですが、入口には段差がありました。段差をなくす工事をすると、費用がかかる上に駐車スペースをつぶしてしまいます。そこで、安価で簡易な折り畳み式のスロープを購入し利用の都度設置することにしました。これで充分対応できています。

写真:簡易折り畳み式スロープ(開いた状態)
簡易折り畳み式スロープは、場所を取らない。
写真:簡易折り畳み式スロープ(畳んだ状態

ハード面では、トイレにはこだわりました。スペースの広さ、入口の幅と扉の開き方など、車いすのお客さんに相談しながら決めました。間口やスペースの関係もあり、施工会社と話し合いましたが、大手メーカーのカタログにあるバリアフリー専用の福祉用品はどれも値段が高く、デザインもいまひとつ。そこで、別に専用品でなくても「障害のある人が使いやすいトイレ」という機能を充たしていればよいのではと思い、ネットで調べて、サイズ、値段的にもいい「折り戸」を見つけて、それを採用しました。同様に「オストメイト」や、便座横の「手すり」も自分で探したものです。

写真:トイレ入り口の折り戸
トイレ入り口には自身で探した折り戸を採用
写真:オストメイト
自分で探した約5万円のオストメイト

トイレットペーパーは、障害によって使いやすい位置が異なるとアドバイスを受け、可動式のペーパーホルダーをネット通販で購入。金額もかなり抑えられて見た目もいいし、すべて実際に車いすの人にも使い心地を確認しました。バリアフリー専用のものだけが正解ではないと感じています。

写真:トイレの手すり
自分で探した手すり。これも約1万円
写真:自由に動かせるペーパーホルダー
ペーパーホルダーは自由に動かせる
写真:佐藤さんの工夫
トイレの中は佐藤さんの工夫がいっぱい

他には打ち合わせデスクは車いすでも足が邪魔にならず使いやすい高さのものを選び、聴覚に障害がある方ともスムーズに対話ができるように壁にはホワイトボードを設置しました。

写真:聴覚に障害がある方のためのホワイトボード
聴覚に障害がある方のためのホワイトボード
写真:座りやすいように来訪者に合わせた高さのイス
障害があっても座りやすいように来訪者に合わせた高さのイス
写真:車いすでも使える可動式で高さが変わるテーブル
車いすでも使える可動式で高さが変わるテーブル

トレーニング器具もシンプルに汎用性があるものにして、トレーニングメニューに合わせながらオプションや固定ベルトを追加しています。とにかく僕は、その人に合ったトレーニングメニューを考えるのが楽しいんです(笑)。

写真:ボールを掴みながらトレーニングができる用具
ボールを掴みながらトレーニングができる用具
写真:手すりよりも握力の負荷がかけられる
手すりよりも握力の負荷がかけられる

障害のある方のトレーニングには、少しの工夫があればシンプルで汎用性のある器具で充分ですね。

一般のトレーニングジムは、マシンの間隔などが健常者用にレイアウトされていて、障害のある人の利用が難しい面もあるかもしれません。本来は一人一人、鍛える箇所も鍛える方法も異なります。例えば、同じ箇所の障害でも人によって可動域が異なるわけですから、その人に合ったトレーニングを提供できるのはパーソナルジムの強みですが、障害のある人だけに特別な対応が必要だとは思っていません。

障害の有無にかかわらず、どこを鍛えなければいけないのか明確であれば、高価なトレーニングマシンを使う必要はありません。ただ、障害のある人に対しては、鍛える箇所だけを安心して動かすために膝の間にボールを挟んで固定する、後に倒れないように足を固定させるなど、少しの工夫があればシンプルで汎用性のある器具で充分トレーニングは可能です。とにかく僕は、その人に合ったトレーニングメニューを考えるのが楽しいんです(笑)。

写真:膝の間にボールを挟んで固定
膝の間にボールを挟んで固定
写真:後ろに倒れないように足を固定
後ろに倒れないように足を固定
写真:専用の用具は使わなくても障害のある方もトレーニングできる
専用の用具は使わなくても障害のある方もトレーニングできる

お客さんの中には体が動くようになって仕事を見つけた方もいました。体を鍛えて自信をつけたことで生活にも自信が持てたとおっしゃる方もいます。

障害のある人のトレーニング方法を考えることで僕自身もたくさんの気づきがありました。いつもお客さんから学ばせていただいている気持ちです。

これからジムに取り入れてみたいものは、車いすに乗ったまま体重が測れるグッズかな

車いすの人の体重を測るのが難しいのです。車いす専用の体重計もあるのですが、それはとても高価。手持ちの体重計に大きな板を乗せて測ったこともありましたが、重心によって変わってしまうんです。どこかのメーカーで、安くて簡単に車いすに乗ったまま体重が測れるグッズを作ってくれないですかね。

Functional 南青山パーソナルジム
https://functionalgym.co.jp/

取材を通して学んだこと

一般的に障害のある方には「障害者用」「バリアフリー対応」とされる用具や設備でなければいけないと思いがちですが、市販の汎用品の中にも使い方によっては充分に使えるものもあることをFunctional 南青山パーソナルジムは証明しています。また利用者と一緒にトレーニングを考えながら、何が必要なのか、その人に寄り添いながら工夫をしたことが、障害のある方に利用しやすいジムを作ったことがわかります。