~オリンピック・パラリンピックを目指すアスリートを応援~
東京アスリート認定選手・インタビュー(11)
安室早姫選手(練馬区・文京区) ゴールボール (2017/3/22)

東京都では、東京のアスリートが、オリンピック・パラリンピックをはじめとした国際舞台で活躍できるよう、競技力向上に向けた支援を実施するとともに、社会全体でオリンピック・パラリンピックの気運を盛り上げるため、「東京アスリート認定制度」を創設しました。

このページでは、認定選手の皆さんに「スポーツを通して自分を成長させ、スポーツと社会のよりよい関係を考えていこう」というテーマで、インタビューをしていきます。

第11回 安室早姫選手(練馬区・文京区) ゴールボール
応援してくれる人のために戦いたい!
チームの精神的支柱になれる選手になるのが目標

安室早姫選手の写真

【プロフィール】
あむろ・さき 1993年3月5日生まれ 沖縄県出身
筑波大学附属視覚特別支援学校、明治大学法学部卒
現在、筑波大学附属視覚特別支援学校専攻科・鍼灸手技療法科
アジア・パシフィック選手権優勝・日本代表(2015)
日本ゴールボール選手権大会 女子の部優勝・TEAM FUZOKU(2015・2016)
2016年の同大会では最優秀選手賞を受賞

目立たなくていい。チームに貢献できる選手になりたい。

ゴールボールは、1チーム3人の選手が、相手ゴールに向けて交互に鈴の入ったボールを投げ合い、得点を取り合う競技だ。攻撃と守備は交互に行われ、試合は前後半12分ずつ、ハーフタイムは3分となっている。選手は視力の障害の程度に関係なく、全員がアイシェードと呼ばれる目隠しを付けて、一切の視覚を遮断する。ボールの位置は、相手の足音や鈴の音などで推測。小さな音に耳をそばだて、全神経を集中させて守り、勢いよく転がってくる重いボールの気配を察して、体を張って止める。音が大きな意味合いを持つため、観客にも静観することが求められる。安室選手の担当するセンターは、ディフェンスの要となるポジションだ。ボールが飛んでくる位置を探り、左右の選手の意見を統率して守備の指示を出す。安室選手の一言がチームの勝敗を握る。

競技中の写真

「守備だけでなく、攻撃するときも相手の動きをサーチし、次に投げるボールの指示をしています。ですから、試合中は常に、耳から聞こえる相手の情報を整理し、頭の中で次の展開を想像しています」。
研ぎ澄まされた空気の中で行われるこの競技では、ちょっとした気持ちの揺れが、勝負を左右する。観客席からの物音にいらついてはいけない。ミスに落ち込んだり、逆転ゴールに高揚してもいけない。24分間はとにかく感情をコントロールし続けることが必要なのだ。
「私は本を読むのが好きなのですが、サッカーの長谷部誠選手の本で印象的な言葉に出合いました。"目立たないけど、チームの穴をとにかく埋める"という言葉です。私もチームにとってそんな存在になりたいです」。

世界を広げたいと上京、そして大学進学 「遠い存在」が「目標」へ変わった時

安室選手は沖縄県出身。上京したのは高校生の時。「一度は東京に出てみたい」と文京区にある筑波大学附属視覚特別支援学校に進学を決め、学校の敷地に併設されている寮で、生活を始めた。ここで出会ったのが、ゴールボール。バレーボールの授業中にゴールボール部顧問の先生から、球技のセンスを見込まれて勧誘を受け、学校のゴールボールチーム「チーム附属」に入部することとなった。
 練習はやりがいもあり、楽しくもあったが、高校3年になると「もっと世界を広げたい」と大学進学を目指して受験勉強に専念。ゴールボールから離れて、しっかりと勉強して明治大学法学部に合格した。「いくつかオープンキャンパスへ行きましたが、パラリンピアンのメダリスト選手が在籍していた大学だったこともあり、環境も整っていて、将来の選択肢も増えそうという理由から明治大学に決めました」。憧れていた東京での大学生活が始まった。

競技中の写真

時を同じくしてゴールボールの女子日本代表チームが、ロンドンパラリンピックで金メダルを獲得するという快挙を成し遂げた。メディアに「ゴールボール」の話題が連日取り上げられる。そのころ、安室選手も「チーム附属」で競技を再開していたが、パラリンピックは自分の競技レベルから考えると、遠い世界のことのように感じていたという。

その遠い世界が目標に変わったのは、明治大学卒業後。鍼灸の資格を得るため筑波大学附属の専攻科に入学した時からだ。そこで「チーム附属」としての活動を本格化させると、チームも自身も躍進を遂げた。2015年の春には全日本チームに召集され「若手のホープ」と言われるように。「周囲のみなさんがすごく応援してくれて、その気持ちがすごくありがたいなと思って、上を目指したいと思うようになりました」。
しかし、全力で挑んだものの、リオパラリンピックの日本代表には選出されず、「悔しいというより、応援してくださっていた方々や私のために貴重な時間を割いてくれた人たちに申し訳ないという気持ちでいっぱい」になり、涙があふれた。「東京パラリンピックには出たい。自分のためというより、支えてくれた人たちのために戦っていきたいです」。

厳しい練習も、大きなプレッシャーも
今しかできない経験

ロンドンパラリンピック金メダルの日本は、リオパラリンピックでは惜しくも準々決勝で敗退。代表チームは、東京パラリンピックに向けて新たなスタートを切っている。
「今の代表選手は、試合経験をたくさん積んでいて、判断が的確だと思います。だから私が全日本のレギュラーになるための課題は、一つでも多く試合に出て経験を増やすこと。今後は海外遠征にも積極的に参加して、海外選手のボールをたくさん受けたいです」。
一方で自身の強みはサーチ力にあるという。「病気のため1歳ごろから両目が見えなくなって、ずっと視覚以外の感覚を研ぎ澄ませてきました。だから物心がついたころから視覚に障害を負った選手よりも、相手の細やかな動きを聞き分け、気配を感じ取る力は、少しは長けていると思います」。それにプラスして、フィジカルトレーニングに力を入れたり、練習拠点である筑波大学附属で全日本レベルの男子と共に練習をして、新しい試合展開のアイデアを吸収したりと、日々進化を目指している。

競技中の写真

練習は充実しているのだが、最近になって戸惑いを感じるのは、日を追うごとに大きくなっているパラアスリートへの期待だ。取材依頼が増え、メディアでパラアスリートが取り上げられる機会が一気に増えたことは、喜ばしいことだが、重く感じてしまうこともあるという。そんな時、心を落ち着かせてくれるのは故郷沖縄県出身の歌手「Kiroro(キロロ)」の曲。歌声から深い安らぎをもらっている。尊敬する母の存在も、かけがいのないものだ。
 「母はとにかく明るくて、とても前向きで、いつも堂々としています。私がリオで代表に入れなかったときも、母は"もともと東京パラリンピックを目指していたんでしょ!?早姫は、これからだよ"と、落ち込む素振りを一切見せなかったんです」。
 明治大学で勉強していたときも、鍼灸の資格を得るため筑波大学附属の専攻科で実習に明け暮れているときも、ゴールボールで東京パラリンピックを目指しているときも。安室さんは成長したい、新しいことを知りたい、昨日できなかったことができるようになりたいと、まっすぐに進んできた。代表に選ばれ、メダルをとることは目標だが、その先にある目的は「ゴールボールを頑張ることで、応援してくれる人たちに喜んでもらいたい。スポーツ専門の鍼灸師になってアスリートの役に立ちたい」その一念である。
 安室さんは人を笑顔にするために、今日も挑み続ける。

ゴールボール・チーム附属

ロンドンパラリンピックで、日本女子代表が金メダルを獲得したことで、金メダルが狙えるチーム競技として、大きな注目を集めるようになったゴールボール。安室選手が所属している「チーム附属」は、文京区にある筑波大学附属視覚支援学校を活動拠点としている。チーム附属のゴールボールチームのレベルは男女ともに日本代表クラス。切磋琢磨しながら練習を行っている。

筑波大学附属視覚特別支援学校
http://www.nsfb.tsukuba.ac.jp/

日本ゴールボール協会
http://www.jgba.jp/

ゴールボール体験会

視覚障害のない人でも、アイシェード(目隠し)をしっかりすれば、この競技を体験することができることもあり、最近は小中学校で体験会が開かれている。
一般の方を対象に、東京都ゴールボール連絡協議会の公式サイトでは、体験会やイベントの案内や、さまざまな情報を掲載している。

東京都ゴールボール連絡協議会
http://goalballtokyo.wixsite.com/goalball

【スポーツを通して身に着けられるライフスキル】

競技だけでなく、練習しながら資格取得のための勉強も欠かさない。何を学びたいか。どう生きていきたいか。常に先を考え、大学卒業後は鍼灸の資格取得を取りたいと、専門学校に進んだ。本を読み、SNSも使いこなす。好奇心旺盛。パラリンピックを人生の通過点ととらえ、自分を見失うことなく、将来の夢も追っている。アスリートを鍼灸で応援したい。そのために今、アスリートとして自身が何を感じるか。その体験がまた新たな仕事にもつながっていく。